退職した従業員が、競合するビジネスをスタートした事案
- トラブルの概要
- ある個人向けFCビジネスをフランチャイジーとして事業展開する当該企業。そこで営業担当者として勤務していた従業員が退職し、同じFCに加盟。当該企業に勤務していた際に担当していた顧客に対して、営業活動を行い、顧客を(当該企業から)奪っていった事案です。
この元従業員は営業担当者であったことから、(当該企業の)多くの個人顧客と面識がありました。その面識を利用して、当該企業から顧客を奪うやり方で、自身のFC事業を拡大していました。加えて、当該企業に勤務していた時に知り得た「顧客情報」をも活用し、事業の拡大を進めていました。この元従業員の営業活動が、当該企業の「顧客情報」をもとにした行為であること。これを放置することは、当該企業にとって大きな損害になることから、当該企業の「顧客情報の利用の停止」と「同じ事業エリアにおける元従業員の事業活動を排除する」ために動いた事案です。
- 解決結果
当該企業は、営業担当者に「守秘手当て」として一定の金額を給与に上乗せして支払っていました。この守秘手当てが、会社の秘密情報に触れる業務に従事するためのものであること。その秘密情報は、社外に持ち出すことが出来ないこと。退職した元従業員がその秘密情報を利用することは出来ないこと。そして、「顧客情報」も秘密情報に含まれることを立証することで、この元従業員が当該企業の顧客情報を利用し、当該企業と競合するエリアで事業展開することを禁止させました。
- 解決のポイント
- ジャパネットたかたの判例を参考にする
- テレビ・ショッピングで有名なジャパネットたかたにも、同様の事案がありました。同社が裁判で争った結果、「守秘手当て」を支給していることを根拠に、顧客情報が秘密情報であることと、それを社外に持ち出し、利用することができない旨が認定されました。「守秘手当ては、その対価である」という理由です。
- この判例を参考に、当該事案も「当該企業の秘密情報を社外に持ち出し、利用することを禁止」させました。
- 加えて、就業規則、雇用契約書、賃金台帳から、「守秘手当て」が基本給とは別枠で支給されていること。元従業員が、当該企業の秘密情報を取り扱う業務を担当していること。秘密情報である以上、社外に持ち出し、利用することはできないことを立証し、主張の根拠を固めました。
- 結果、元従業員は「勝ち目がない」と判断し、競合するエリアから撤退しました。
- 入社時に「競合避止義務を含めた誓約書」をとることが重要
- 退職した従業員が、競合する事業を始めるのはよくあるケースです。その際、営業活動に前職時代の顧客情報を活用することが多いため、大きな問題となります。
- これに対応する最善の策は、従業員を採用する際(入社時)、雇用契約書などの入社書類と一緒に「競合避止義務を含めた誓約書」を徴求する方法です。これにより、競合する事業の展開を防止することができます。「入社時」は、こうした書類を徴求しやすい環境です。
- 一方、退職時に「競合禁止の誓約書」を徴求する方法もあります。しかし、既に事業を計画している従業員の場合、そうした書類の提出を拒否するケースも多いため、「入社時」に対応することをお勧めします。
- 本事案では、入社時にも退職時にも「競合避止義務の誓約書」をとっていませんでしたが、「守秘手当て」を支払っていたことが決定打となりました。従業員が退職して競合する事業を始めるケースはよくあることから、そうした事態への事前の対処を行っておくことが非常に重要となります。
- ジャパネットたかたの判例を参考にする
- まとめ
最大のポイントは「退職した従業員が、貴社の競合になる」というリスクは、今や「あたり前」になっているという現実を踏まえた対応が必要になっているという点です。本件は、「独立・起業」というケースでしたが、その他にも「ライバル企業に転職」し、「営業」や「商品開発」などの業務において、貴社の秘密情報を活用する場合があります。例えば、顧客情報や技術情報などを。
そうした事態への対象は、採用時にしておくことが必須になっています。具体的には、(前述のように)入社時に競合避止義務を盛り込んだ誓約書をとるといったことが必要になります。また、退職時にも、「競合避止義務」についての覚書をとることが重要です。
そうした「備え」を構築しておくことが、貴社を守る仕組みです。