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集金した売上げ金を、(集金した)営業担当者が着服していた事案

トラブルの概要
クリーニング業を営む当該企業。
複数の営業担当者が在籍し、取引先の開拓からクリーニング品の受け渡し、売掛金の集金(月1回)まで営業担当者が受け持っています。

その営業担当者の1人が、集金したお金の一部を着服していた事案です。
この営業担当者は、(当該企業が使用している正規の領収書とは別に)自作した領収書を予め用意し、集金時にその自作領収書を使用。集金した資金の一部を着服した上で、残りを当該企業へ集金金額として報告するという手口で、着服を行っていました。

この営業担当者のみ大きな売掛金(未収売掛金)を抱えていることに不審を持った経理担当者からの報告で、当該企業が調査。集金金額の着服の事実を発見し、その対応を行った事案です。
解決結果

取引先数社に支払い状況を確認すると、「毎月、全額支払っている」という証言を得たこと。当該営業担当者が自作した領収書を取引先から入手したことから、着服を認定。当該営業担当者がそれを認めたため、懲戒解雇としました。着服金額(約100万円)は、全額一括返済により回収しました。

解決のポイント
  1. まずは、事実を調査し、正確に把握すること
    • 「疑わしい」だけでは、処分をすることはできません。また、「無実の従業員を告発する」ことは、別の問題に発展します。従って、まずは事実を調査し、正確に把握することが第一歩です。
    • 本件では、当該従業員が担当する取引先の中で、「着服が疑われる先」であり、かつ「会社としてパイプのある先、数社」にヒアリングを行いました。すると、「売掛金は、毎月全額支払っている」という証言と共に、自作の領収書が出てきました。自作領収書の金額と、会社への入金記録を付け合わせると差額が出てきたため、これを「着服」として認定しました。
  2. 続いて、本人に事実認否を確認すること
    • 上記の調査記録をもとに、本人への事情聴取を実行。本人が認めたため、正式に「売掛金の着服」として認定。
    • 着服の総額を洗い出すために、当該従業員が担当しているすべての取引先の売掛金について、本人から聴取。合計で、約100万円の着服が判明しました。
  3. 記録を文章で残し、正確な証拠書類とすること
    • ここまでの一連の経過および証拠書類を文章として記録しました。
      • 具体的には、取引先から「支払い確認書」の提出をして頂きました。これは、「いつからいつまでの期間、この金額を、当該従業員へ支払いました」という内容です。これに、当該従業員が自作した領収書を添付してもらっています。
      • また、それらの支払いに対応するべき「会社の入金記録」と「正規の領収書(の控え)」を整え、これをもとに「差額(=着服金額)」を計算。文章として残しました。
      • それから、当該従業員への事情聴取の内容(および日時・場所)も文章に残しています。
      • また、始末書、顛末書も本人自筆にて提出させました。
    • これらは万一、従業員が懲戒処分を不服として訴えを起こした場合に対抗するための証拠書類となります。
まとめ

実は、中小企業において、集金した売掛金の着服はよくある事例です。そのため、それを未然に防ぐ予防先と、万一着服が疑われる事態が発生した時の解決プロセスをしっかり準備しておくことが重要です。以下に、5つの重要ポイントをまとめておきます。

  1. 事実の調査と確認が何よりも重要
    • ほとんどのケースでは、「着服が疑われる」という状態から対応がスタートします。そこで、最初にやるべきは、事実の調査であり、それが確かに事実であることの確認なのですが、この作業の詰めが甘いことがよくあります。
    • そこの詰めが甘い場合、真相が明らかにならず、着服金額の回収ができないばかりか、「疑われた従業員への対応が悪い」として会社側の非を責められることもあります。また、懲戒処分を行った後に、その処分に対する不服を訴えられ、そこで敗訴するケースもあります(もちろん、損害賠償を請求されます)。従って、事前の調査とその事実確認が非常に重要であり、このプロセスは専門家のアドバイスをもとに進めることが重要になると考えます。
    • また、「疑わしい従業員」に対する事実認否においても、その手続きや記録を正確に行う必要があり、ここでも専門家のアドバイスが非常に重要になります。
  2. 日頃から売掛金の状況を複数の担当者がチェックできる業務プロセスにしておくこと
    • そもそも売掛金の状況に目を光らせておくことが重要です。本件では、経理担当者がベテランであったため、これまでの取引状況から「あれ、あのお客さんがこの売掛金の金額?」と違和感を覚えたことが発覚の発端です。それがなければ、被害はかなり大きくなっていた可能性があります。
    • 売掛金の管理は、(1人に任せず)複数の担当者の目に触れるようにする。回収が遅れている売掛金については、早い段階でその状況を社内で共有するなどの業務プロセスの導入が重要だと考えます。
  3. 集金担当者の管理を徹底する
    • 営業担当者が集金も担うような場合、取引のすべて(発注から売掛金の回収まで)をその営業担当者が管理することになり、不正の温床になるリスクが高まります。
    • 売掛金の残高や(回収すべき金額に対する)未回収の比率などを、他の集金担当者のそれと比較するなどして、特異な行動や状態を洗い出すプロセスが必要だと考えます。すると、「1人の集金担当者のみ、未回収の売掛金残高が異常に高い」といった事実が見えますので、アラームを鳴らすことになります。
  4. 取引先とのリレーションシップを営業担当者のみに集中しない
    • 取引先とのリレーションシップが1人の担当者のみに集中する場合、企業にとって様々なリスクが生まれます。例えば、取引先の中身が見えづらくなる。取引先とのリレーションシップを武器に、その担当者が必要以上に権力を持ってしまう、等々。
    • 従って、取引先には上席者などが定期的に訪問することで、貴社としての窓口を複数保有することが非常に重要だと考えます。本件の場合にも、取引先とのリレーションシップがあったことで、調査が迅速にかつスムーズに進みました。また、会社への信用の毀損という側面からも、最小限に済んだと考えます。
  5. 着服した従業員が開き直ったら、次のステップへ
    • 本件は、当該従業員が着服の事実をすぐに認め、謝罪の意を表しました。そのため、当該企業と当該従業員の間で問題を解決しました。
    • しかし、中には着服した従業員が「まったく罪を認めない」、「開き直る」といったケースもよくあります。そうした場合、「広く、取引先へ事実確認をする」、「刑事告訴をする」など次のステップを考慮する必要があります。「次のステップ」を準備しておくことで、従業員の不誠実な態度に対抗することができます。
    • こうした解決に向けた戦略は、実際の事案を数多く取り扱った経験が重要になります。専門家に依頼する場合、経験が重要になるのは、こうした理由です。

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