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社長と取締役が、経営の主導権を巡って派閥争いを繰り広げた事案

トラブルの概要
建設会社向けに、鋼材の販売を行うある企業の事案です。当該企業には先代の社長時代から勤務する古参の取締役がいました。この取締役は、長年の勤務によって特定の事業に精通していること、主力取引先と密接な関係を築いていることなどから、社内で絶大な権力を握っていました。

この古参取締役は、そうした権力を背景に社内で派閥を形成し、社長と対立していました。あたかも、会社の中に「別の独立国が存在する」ような状態となっており、経営にとって大きな障害となっていました。

その状態を打開し、社長が適切な経営を行える状態に戻すことを目指した事案です。
解決結果

こうした「古参の取締役が、社内で事業と権力を独占している」という事案の場合、不正と結びついているケースが非常に多くあります。この事案の場合にも、その古参取締役の身辺調査をした結果、「売上げの横領」が見つかったため、懲戒解雇としました。あわせて、その事実を社内に公表することで、この古参取締役の求心力を削ぎ、派閥解体を行いました。

その後、社内で2つの派閥が対立したり、それによって業務が停滞したりすることがなくなり、社長による適切な経営が出来る状態になっています。

解決のポイント
  1. 当該古参取締役の身辺調査を入念に行い、事実関係を立証しました
    • 古参の取締役が必要以上に権力を持ったり、派閥を作り経営者と対立したりする事案は、かなり多くあります。そうした場合、会社経営が適切に行えない上に、その古参取締役が自らの派閥の従業員を引き連れて独立する、といったこともあります。経営の大きなリスクになります。
    • また、こうしたケースでは古参の取締役が不正を働いているケースが非常に多いのも事実です。
    • 本事案では、そうした経験をもとに(秘密裏に)古参取締役の身辺調査を行いました。すると、「売上げの横領」の疑惑が浮上。具体的には、取引先と結託し、売上金の一部を古参取締役の個人口座に入金させていました。納品書や請求書を2種類作成し、取引先へは高い金額のものを。当該企業へは低い金額のものを使用して不正を隠蔽していました。
    • 鋼材の仕入れと発送の履歴、在庫を調査したところ疑惑が浮上。疑惑が浮上した取引先への発送数量とそこから計算される売上金額が長期間に渡って乖離していることから、その取引先を独占的に担当していた古参取締役に聴取。結果、不正を認めたという経緯です。
    • 鋼材の発送履歴、そこから計算される売上金額、当該取引先からの入金記録、その差額などの証拠は、文章として記録しました。あわせて、古参取締役への聴取内容も文章で記録。不正の内容と金額を記載した文章への記名・押印も求めました。
    • 社内で権力を握っている相手であり、相当の抵抗が予想されたことから、反論の余地を与えない対応が必須であると考えていました。そのため、不正の証拠固めとその記録が非常に重要になります。裁判などに発展した場合には、更に重要になりますので、初期段階から証拠の確認と記録化には特に気を配りました。
  2. 社内の派閥を効果的に解体する
    • 古参取締役への対処も重要ですが、その派閥となっていた従業員への対処も非常に重要になります。”派閥の長”と一緒に多くの従業員が退職してしまうというケースもあります。また、従業員が会社に残った場合でも、会社に対する反抗的な態度を露わにし、問題行動を繰り返すケースもよくあります。そうした言わば”二次被害”の予防をすることが重要となります。
    • 本事案では、古参取締役の「売上げ横領」という不正を社内で公表することで、派閥の従業員からの(古参取締役に対する)求心力を削ぐことを狙いました。「不正をしていた」という事実に加え、「結局、自分だけが得をしようとしていたのか!」という従業員の感情が生まれ、求心力は急速に離散していきました。
  3. 長期戦になることも。「待つ」姿勢が大切
    • 本事案は、比較的早い段階で不正が見つかったため、比較的早い段階で解決へとつながりました。しかし、不正がなかなか見つからないケースというのもあります。
    • そうした時には、「焦らずに待つ」、「その間、必要な調査を粛々と実行する」という意識が重要になります。焦って動いてしまうことで、失敗をしてしまう。それによって、対立する相手を更に有利にしてしまったり、問題を更に大きくしてしまったりということが起こります。「待つ」という姿勢が本当に重要になります。
まとめ

本事案のようなケースは、事業や権限が特定の一人に集中していることで発生しやすくなります。例えば、特定の事業分野を一人の取締役が専任担当のように仕切っているとか、大口の取引先との接点を特定の従業員に任せっきりにしているといったケースです。そうした場合には、権力の集中が起こり、時に経営者と対立する派閥となっていくことがあります。

そうしたリスクを回避するためには、権力の分散、特定の事業への過度な専任などを事前に防止するガバナンス体制が必要になります。こうした防止策を、「会社の仕組み」として事前に構築しておくことが肝要となります。

また、権力の不当な集中は多くの場合、不正を生む要因になります。不正は直接的に会社に損害をもたらしますが、会社の企業文化を蝕むという経路を通じて、会社の屋台骨を弱体化させます。一旦蝕まれた企業文化を復活させるのは、非常に困難な作業になります。従って、そうならないための予防策(ガバナンス体制の構築)が重要になります。

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